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【Sansan様の事例共有】在宅勤務が従業員エンゲージメントに与える影響の分析

はじめに

本記事では、Sansan株式会社の前嶋さんによる分析の詳細を紹介します。
以前の弊社での調査結果と同様に、職種によってテレワークの影響や、各種人事施策の効果が異なるという結果が出ています。今回は、two-way固定効果モデルという計量経済学でよく用いられる手法で統計的に厳密に調査されています。

Sansan株式会社 人事部 戦略人事グループ 前嶋 直樹 さん

東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。同博士課程在籍中。専攻は社会学。社会ネットワーク理論を用いて、学級内のつながりから労働市場・結婚市場までを幅広く研究。現在は、名刺交換ネットワークの価値を最大化する新サービスの研究開発に従事するほか、データアナリストとして社内の人事データ分析を通した人事戦略の立案・評価も行っている。

【要約】wevoxデータサイエンティストチームのまとめ

本調査では、在宅勤務率とエンゲージメントの関係や人事施策の効果がビジネス職とエンジニア職では異なることが分かりました。

在宅勤務率が高いほど、ビジネス職においてはエンゲージメントスコアが低下し、wevoxの項目の中では「仕事仲間との関係」などが特に大きく下がっています。

このような課題がある中で、「Know Me」(Sansan株式会社様が行っている社内施策。詳細は後述)という飲食費補助のような施策を実施されましたが、本施策の利用率が高いほど、特に「仕事仲間との関係」のスコアが向上する事がわかりました。ビジネス職は人と相対する仕事であるからこそ、在宅勤務の影響を強く受けることが示唆されます。

一方、オフラインのコミュニケーション機会が減少しても、コミュニケーション促進施策等で補填できることも分かりました。

エンジニア職の場合、全体的なエンゲージメントスコアの低下はなく、wevoxの項目では「挑戦する風土」のスコアは低下するものの「ミッション・ビジョンへの共感」は向上することが分かりました。

エンジニア職の場合、高い在宅勤務率が好影響を与える場面もあることは、営業職とは異なる著しい事実であり、コミュニケーションのオンライン化や適切なITツールの利用促進がむしろエンゲージメントを高める可能性があることを示唆しています。

wevoxでは、「新卒社員だから。同じ属性だから」と十把一絡げにしたり、全体傾向が同じだから同様のトレンドだろうと決めつけたりするのではなく、職務内容や価値観、性格特性ごとに、ワークスタイル変化の影響は多種多様であることを理解し、組織側が受け入れ体制を調整することが大切と考えています。

また、テレワークの常態化に伴い、肌感覚で職場の雰囲気を感じとることが難しくなり、成熟度の高い管理職でもマネジメントの難易度が上がっているとお聞きします。新任の管理職は初めての経験ばかりでさらに大変かと思います。wevoxによる職場状態の「見える化」はこのような課題感にも価値を発揮すると我々は考えています。

Sansan株式会社の前嶋さんによる分析の詳細

 新型コロナウイルスの流行によって、多くの企業でテレワークが導入され始めていています。テレワークの推進が、従業員のエンゲージメントにどのような影響を及ぼすのかは、人事上の意思決定や施策設計のために大きな価値を持つ情報であると言えます。ですが、ここで注意しなければならないのは、在宅勤務が従業員エンゲージメントに与える影響は、同じ在宅勤務の頻度であっても、営業職など対面での業務が主になる職種と、ソフトウェアエンジニアなどデスクワークが主になる職種の間では、異なる可能性があるということです。こうした職種別の特性を把握することで、よりきめ細やかな人事施策が可能になると考えられます。そこで本稿では、Sansan株式会社を事例として、コロナ禍中の在宅勤務率が従業員エンゲージメントに与える影響について、職種による効果の違いに着目しながら、定量的分析を行っていきます。

 従業員エンゲージメントに対しては、在宅勤務率だけでなく、その従業員や、エンゲージメントを測定した時点に固有の要因が作用するはずです。例えば、年齢や性別や家族形態、あるいは緊急事態宣言のようなイベントなど、様々な要因もまた、従業員エンゲージメントには影響を与えると考えられます。したがって、このような時点によって変わらない要因の影響を除いた上で、在宅勤務率と従業員エンゲージメントの関連性を検討する必要があります。そのため本稿では、計量経済学で用いられる手法である、個人の異質性と時間効果を両方統制した「two-way固定効果モデル(以下、モデル)」という手法を用います。

 ここからは、使用したデータについて説明します。Sansan株式会社では、新型コロナウイルスの流行への対応から、在宅勤務制度を導入しています。メンバーが在宅勤務したかどうかは日々記録されており、これに基づいて、営業日に占める在宅勤務の割合を計算することができます。在宅勤務率は、0から1までの値を取ります。ある月の在宅勤務率が、その月の従業員エンゲージメントスコアに与える影響について、職種の違いに焦点を当てて、定量的な分析を行っていきます。なお、今回使用したデータセットの中で、ビジネス職は444人、エンジニア職は202人含まれていました。部署または役職名に「エンジニア」「デザイナー」「R&D」という文字列を含む従業員を「エンジニア職」、そうでなければ「ビジネス職」とラベリングしています。最終的に、2020年6月から12月までの7時点からなるパネルデータを作成しました。

 従業員エンゲージメントスコアは、株式会社アトラエが提供するエンゲージメント解析ツールwevoxを通じて毎月配信されるアンケートを元に測定しています。具体的には、「やりがい」「裁量」「達成感」「成長機会」「フィードバックや気付き」「仕事量」「ストレス反応」「職務上の支援」「自己成長への支援」「上司との関係」「仕事仲間との関係」「成果に対する承認」「発言・意見に対する承認」「評価への納得感」「ミッション・ビジョンへの共感」「価値観・行動指針への共感」「会社の方針や事業戦略への納得感」「経営陣に対する信頼」「事業やサービスへの誇り」「公平性」「キャリア機会の提供」「挑戦する風土」「部署間での協力」「称賛への妥当性」「職場環境への満足度」「ワーク・ライフ・バランス」に加えて、それらを合成した「総合」の全27項目を用います。これらはすべて0から100までの整数値を取ります。

 また、本分析では、Sansan株式会社が行っている「Know Me」と呼ばれる社内施策がエンゲージメントに及ぼす効果も検討します。Know Meとは、他部署で、過去に飲んだことがないメンバーと、3名の飲み会の費用に対し、会社から一定金額の補助が出る制度です。この他、エントリーした⼈の中から人事部がシャッフルして参加者を選ぶ「シャッフル Know Me」や、逆に部署内の交流を深める「ウチ Know Me」など、通常の「Know Me」から派生した制度も存在します。従来はオフラインでの飲み会限定での補助制度でしたが、データセットに含まれている期間では、新型コロナウイルス流行を受けて、オンライン・オフライン併用で行われました。「Know Me」は、コロナ禍でのメンバー同士のインフォーマルなコミュニケーションを活発化させることで、エンゲージメントに対して正の関連性を持っていることが予想されます。本分析では、「シャッフルKnow Me」や「ウチKnow Me」を含めた、ある月での「Know Me」制度の利用回数をモデルに投入しています。
 
 下の図は、在宅勤務率の7時点での平均値が、社内の平均値より大きいか小さいかによって従業員を2つのグループに分けて、各エンゲージメントスコアの7時点での平均値を比較した棒グラフを示しています。社内平均以上のグループは、社内平均未満のグループに比べて、エンゲージメントの各スコアはやや低くなっていることがわかります。しかしながら、これは単純に在宅率とエンゲージメントという2つの変数間の関連性を見ているにすぎません。こうした関連性は、それぞれの従業員の持つ他の特性などによって生じている可能性があります。そこで、個人の異質性や、ある時点に特有の効果を考慮した固定効果モデルを適用して、より厳密に関係性を見ていきます。

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 ここからは、実際にモデルを適用した結果を見ていきます。下の表は、モデルの推定パラメータのうち、在宅勤務率が持つ各スコアへの係数を整理した表です。統計的に有意な係数は、太字で表示しています。
 在宅勤務率がエンゲージメントに与える効果は、ビジネス職とエンジニア職で異なる影響が見られました。まず、ビジネス職では、在宅率が高ければ高いほど総合スコアが低くなるという関係性が確認されました。また、より具体的には「やりがい」「職務上の支援」「仕事仲間との関係」と有意な負の関連が確認されました。
 一方で、エンジニア職では、在宅勤務率と総合スコアとの間に有意な関連性は見られませんでしたが、「ミッション・ビジョンへの共感」に対しては正の関連性が、「挑戦する風土」に対しては負の関連性が見られました。
 この結果からは、職種ごとに在宅勤務率がエンゲージメントに異なる効果を及ぼしていることがわかります。ビジネス職では周囲との関係性や「やりがい」のような精神的な側面に関わる一方で、エンジニア職では組織理念的な側面への影響が見て取れるのは興味深い結果です。

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 ここまで、在宅勤務率と従業員エンゲージメントの関係性について見てきました。ビジネス職については、在宅勤務率が高ければ高いほどエンゲージメント総合スコアが低いことがわかりました。では、人事施策「Know Me」は、ビジネス職のエンゲージメントを向上させるような効果を持っていたのでしょうか。下の表は、ビジネス職に限定して、モデルの推定パラメータのうち、Know Meが持つ各スコアへの係数を整理した表です。ここでも統計的に有意な係数は、太字で表示しています。
 これを見ると、Know Meの利用回数は、総合スコアとは有意な関連性を持っていませんでしたが、「仕事仲間との関係」と正の関連性を持っていることが確認されました。「仕事仲間との関係」は、ビジネス職において、在宅勤務率によって低下する項目でしたが、Know Meの利用はこれを向上させる効果を持つ可能性があります。なお、この効果はエンジニア職の場合は確認されませんでした。下図は、在宅勤務率とKnow Meの利用回数の係数を視覚的に表した図です。推定されたパラメータからは、仮にある月の在宅勤務率が0%から100%になった時に下がる「仕事仲間との関係」の低下分(-2.121)は、3回分のKnow Me利用(0.789*3=2.367)によって相殺されるという結果となります。

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 ここまで、在宅勤務率が従業員エンゲージメントに与える効果について検討してきました。まとめると、在宅勤務率は、ビジネス職の場合はエンゲージメントの総合スコアや「やりがい」「仕事仲間との関係」「職務上の支援」といった項目に対してマイナスの影響を与え、エンジニア職の場合は「ミッション・ビジョンへの共感」に対してプラスの効果、「挑戦する風土」にはマイナスの効果をもたらすことがわかりました。また、社内のコミュニケーション向上施策である「Know Me」がビジネス職の「仕事仲間との関係」と正の関連性を持つことがわかりました。
 本稿での分析は、在宅勤務も、コミュニケーション積極化にかかわる施策も、決して一枚岩ではなく、職種による違いを踏まえる必要があることを示唆しています。本稿での分析結果は、あくまでSansan株式会社の事例分析ですが、他の組織での分析の呼び水として、あるいは人事施策設計のヒントとなれば幸いです。

wevox顧問・慶應義塾大学 島津明人教授からのコメント

コロナ禍の影響で、⼤⼿企業を中⼼に在宅勤務を導⼊する事例が増えています。

しかし、在宅勤務によって従業員の働きがい、パフォーマンス、健康は向上するのか、あるいは低下するのかについては、⼀定の知⾒は得られていないのが現状です。

今回の調査では、在宅勤務率を厳密に定義したうえで、在宅勤務の影響を職種に分けて検討した点に特徴があります。また、在宅勤務の影響を wevox により多⾯的に評価している点も強みです。

今回の結果では、職種によって在宅勤務の影響が異なることを明らかにしただけでなく、在宅勤務による悪影響の相殺につながる⽅策も提⽰している点で、⼈事施策の策定に⼤きなヒントを与えてくれるでしょう。

おわりに

本記事内容に関するイベントを2021年06月24日(木)11:00〜12:00で予定しております!

ご興味がある方は是非ご参加下さい!!

また、wevoxでは様々な企業様との共同研究を実施したり、共同でイベントをしたりしております。

是非ご興味ある方やご一緒頂ける方々はカスタマーサクセスチームなどにお声がけくださいませ!


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