【書き起こし:後編】競争環境の変化に伴う組織のあるべき進化とは 〜今取り組むべきエンゲージメント経営〜
本記事は、株式会社アトラエの代表取締役である新居 佳英が、大手企業の経営者や人事役員、働き方改革の推進担当者の方々向けにお話しさせていただいたとある講演内容の書き起こしを元に作成しています。
昨今エンゲージメントという言葉が働き方改革や組織づくりの文脈で多く語られています。それを受けて、本記事では競争環境の変化に伴う組織のあるべき進化、今取り組むべきエンゲージメント経営とは何か?について詳しく書いていきたいと思います。
前編では以下のような内容に触れてきました。詳しくはこちら
・現在の日本が置かれている特殊な状況
・なぜ日本がこんな状況に直面しているのか?
・現在の状況に対して求められている組織の進化とは
・昨今話題のエンゲージメントとは
後編では、エンゲージメントを活用しどのように組織改善につなげるのか?エンゲージメントを重視した組織経営をしているアトラエの事例をもとに、実際にどのような制度設計や取り組みが有効なのかについて触れていきます。
エンゲージメントを活用した組織改善
では、エンゲージメントをどう活用し、どう組織改善につなげていくかということですが、ここで大切なのはダイエットや健康改善と同じで、自分たちの組織の状態をしっかりと把握することからはじめるということです。
ダイエットする場合、まずは自分の体重がどのくらいで体脂肪率が何%なのかを把握した上で、食事内容の改善や運動や筋トレを開始しないと当然ながらダイエットは進まないでしょう。
健康についても同様で、なんとなく不健康だからというだけで、健康になろうとしても健康になれるわけではなく、人間ドッグや、健康診断などを受け、血中中性脂肪や尿酸値、血圧などの数値が高いのか低いのか、どこがどう悪いのかをしっかりと把握し、その人にあった方法でのアプローチが必要にです。
これを組織改善という文脈で考えると、組織によって、具体的には業界・業種、事業モデルや採用している社員の特性などによって、改善手法が大きく異なってくるということです。まずは自分たちの組織の状態をしっかりと把握するというところからスタートするべきではないでしょうか。
そういった組織の課題や現状をしっかりと把握するためのツールとして、我々が提供しているのが、この「wevox(ウィボックス)」というサービスです。現在1200以上の組織(プロスポーツチームや、医療法人、学校法人、NPOなどのあらゆる組織・チーム)がこのwevoxを利用しています。
我々の構築しているエンゲージメントは、9つのドライバーで構成されています。エンゲージメントと因果関係がある9つのファクターによって、何が要因でエンゲージメントが下がったのかが明確にわかるようになっています。
部門ごとや入社年次ごと、職種や役職などあらゆる属性で、このデータを分析することができます。それによって、どのチームがどの要因でエンゲージメントが上がったのか、または下がったのかということが明確に分かるようになります。
従来の年に一回だけ実施する満足度調査とは違い、エンゲージメントに関する調査は、パスルサーベイという、高頻度でのチェックを続けることが重要です。年に一回、体重計に乗ったところで、ダイエットが成功しないのと同様で、組織についても基本的には月に1回(推奨)、どんなに長く見積もっても3ヶ月に一回は必ず今の組織状態をチェックをすることが大事だと考えています。
また、絶対値を見るのではなく、推移や変化を定点観測することがエンゲージメントを組織改善に活かすためにすごく大切です。
また、人事担当者や経営者だけでエンゲージメントを把握するのではなく、現場のマネージャーの方々と一緒に把握する方がより良い結果に繋がるというデータもあります。wevoxは、日々のマネジメントやチーム改善に活かすための道しるべのような仕組みになっています。
wevoxは、単なるのアンケートツールではなく1200を超える組織の回答データを蓄積・分析することで、データビジネスとしての側面も有しています。
このデータアナリティクスの強化によって、類似サーベイをとっていても分からないことが分析可能となりました。
具体的には、とあるチームでは、成長実感をきちんと持ってもらうことが、エンゲージメントに最も影響のあるファクターであるということが分かったり、また別のチームでは、心理的安全性や健康が最もエンゲージメントに因果関係があるということがわかる、また別のベンチャー企業では、理念やビジョン、ミッションなど戦略に関する内容の共有や共感、この項目が圧倒的にエンゲージメントに影響があるということが分かったりしました。つまり、組織ごとにエンゲージメントに影響を与える要因は異なるということです。
また、未来予測に特化した機械学習モデルにより、離職や心身の不調を示す従業員を早期に発見することが可能になります。当然ながら、従業員側にしっかりとパーミッション取ることが必要ですが、このモデルによって本人が心身の不調などを自覚する前に、フォローができるようになりました。
一方で誤解されやすいのが、wevoxを導入するだけで組織が良くなると思われことです。wevoxはあくまでも、組織の状態を可視化するもの。人間ドッグを受けたからといってすぐに健康になるわけではないのと同じです。出てきた結果をみながら、なぜこうなっているのか、どのように改善しようか、ということを自分たちで考えることが非常に大事です。wevoxはまさにチームづくりのきっかけとなるような、共通指標を持つためのツールだと思っています。
大切なのは、対話・議論によって、組織を自分たちの手で改善し続けることです。エンゲージメントを測定しながら、それをKPIとして組織改善に活かすことが重要です。
ときには、人事コンサルや組織コンサルなどの支援を受け、外部からの良い意味での圧力を利用し一気に改善を進めるということがあるでしょう。しかし長期で見れば、経営とは「事業」と「組織」の両輪を回すことですので、組織改善というのは、終わりのない経営課題の一つです。そのためのKPIとしてエンゲージメントを測り続けることが大切だということを、弊社の組織作りを振り返ってみても感じます。
エンゲージメントを重視したアトラエの組織づくり
まだまだ成長途上の企業ですが、国内での働きがいのある会社ランキング1位、アジア全体でも5位というありがたい表彰をいただいたこともありますので、何か一つでも参考になればと、我々アトラエの組織についても最後に少しだけお話しさせていただきます。
我々が、組織づくりにおいてこだわっていることは3つです。
まず1つ目、価値あるミッション・ビジョンの策定や改善、そしてその共有を徹底すること。
というのも、会社とは壁で囲った中で労働者を働かせ、その安全を保証するものではなく、価値あるビジョン・ミッションを策定し、このミッションやビジョンに共感した人たちが集まる、というのが会社という組織のあるべき姿だと思っているからです。
2つ目は、エントリーマネージメント。
採用時のミスマッチをとにかく最小化することです。
我々はあくまでも価値あるミッション・ビジョンを実現するためにチームを作っています。なので、そこに共感できない人がチームに入ってこないようには徹底しています。手法としては色々ありますが、例としては面接の回数です。一人の採用に対して最大10回ほど実施することもあります。
場合によっては、まずは契約社員として入社してもらい、3ヶ月後にもう一度面談をして、そこで正社員になるかどうか一緒に決めましょうという提案をすることもあります。
3つ目は、我々のビジョン・ミッションに共感して入社してくれた意欲ある仲間たちが、無駄なストレスなくパフォーマンスを発揮できるかを強く意識すること。
最近数年で子供がいる社員も増えてきたのですが、子育て中の社員にとっての「無駄なストレス」が少しでも無くなるように、みんな必要に応じて「子連れ出社」や「リモートワーク」を取り入れているようです。子供がいるというだけで、時間や場所にぐっと制限が多くなりますから、そこは環境に合わせて柔軟に対応すれば良いと思っています。
※具体的なユニークな組織づくりの内容例
昨今、ホラクラシーとか、ティールと呼ばれるフラットな組織体が非常に注目を集めていますが、そのような言葉が全くない時代から、我々は階層や役職のない組織体として運営をしています。
なので、アトラエの社員たちは全員、入社直後から上下関係がない状態で、自分で考えて自分で動かなければいけませんでした。
自分で考えて動くために一番大事なことは、情報共有の徹底です。
上下がないので全員いち社員ですが、経営者といち社員が同じように情報を共有できていることがとても重要です。
我々は、一部上場企業ではありますが、経営情報を含めたあらゆる情報が全社員にオープンな状態になるよう徹底しています。
また、評価とは上司が部下にするものというのが多くの日本企業で常識だと思いますが、我々は、上司と部下の関係性がない組織なので、自分の選んだ5人から評価を受ける、というような360度の評価制度を構築しています。
また、組織的な意思決定については、独自のプロセスを持っています。50〜60人もいるとさすがに、全員で議論・多数決で意思決定という手法はうまくいきません。多数決による民主主義的なバグもでてしまいますよね。
ですので、アトラエには各プロジェクトにプロジェクトリーダーという役割の人がいて、そのプロジェクトリーダー同士の会議の中で、会社にとって重要な意思決定をしています。
これは出世ではなく、あくまでも役割です。このプロジェクトリーダーだけが、CEOの任命で決まるというルールになっています。フラットにおける唯一のCEO権限は、プロジェクトリーダーを任命することです。
それ以外には、名実ともにオーナーシップを持ってもらうために、特定譲渡制限付き株式という、欧米では経営者向けのインセンティブになるものを全社員に配布しています。
おそらく日本だと初めての事例でしょう。
働き方に関して言うと、世の中的にはスーパーフレックスというのでしょうか。我々は、働く時間や場所などすべて自由です。会社には早朝に来ようがお昼過ぎに来ようが全く問題ありませんし、昼間3時間抜け出そうが、4時間抜け出そうが、全く問題はありません。
あと3年働いたら1ヶ月休みのサバティカル休暇と呼ばれるものも、全社員に付与しています。これは、長期的にアトラエで働く中で、1ヶ月くらいの休暇があったほうが社員の人生の幸せに寄与できるのではないかと考え制度化したものです。
多くの先輩経営者の方々には「非常に難しいよ」というアドバイスいただいてきましたが、社員にとってストレスのない会社をつくりたいとこだわり続け、このような組織形態であるアトラエという会社を16年前から我慢強く運営してきました。
社員にとって働きがいのある会社を作ることが、ひいては、お客様のためになる、そしてさらには株主のためになる。そう信じ続けてきました。
"会社"とは関わる人達が幸せになるために作られた仕組みであるという考えを貫いた結果、順調に利益を上げることができました。
特筆すべきは、社員一人あたりの売上高。100人の組織で100の売上をあげて、1000人の組織で1000の売上だとするならば、ある種足し算的に増えているだけなので、社員1人あたりに払える給与、労働分配率を考えると、一定に留まってしまいます。
しかし、我々としては社員一人あたりの生産性、要は世の中に出す付加価値をどうやって上げていくかにこだわって運営しているので、この10年間で社員1人あたりの生産性、売上高については、上昇させ続けることができています。
ここを重要視している理由は、ただ売上を上げればいいだろうということではなくて、社員が幸せになる売上の上げ方をしていこうということです。
結果としては、社員数41名と歴史的にも非常に少ない人数で東京証券取引所一部まで上場しました。
また、シンガポールのビジネススクールでケーススタディとして、我々の考え方を取りあげていただきました。そして先ほど申し上げたように、2019年にはGPTWという働きがいのある会社ランキングの国内ランキングで、小規模部門で1位の評価をいただきました。
私は、日本人のチームとしての力というのは、ラグビーのワールドカップの結果も含め非常に強いと思っています。それが戦後の高度成長期で発揮されたのでしょう。あの当時、官民一体となり日本が急成長したことを見ても、本来日本人が持っている実力なのだろうと思います。
一方で、高度成長期の実績ないしは結果があまりにも偉大だったこと、世界から見ても類を見ないレベルの復興だったということが、ある種、仇となり平成の30年間が「失われた30年」と言われることに繋がったと思えます。
高度経済成長期に確立された終身雇用や年功序列という仕組みは、長い歴史の中でも、非常に短い期間のかなり特殊な背景においてのみ成り立っていたのだろうと考えると、これからの令和の時代においては、日本社会全体が大きく変革していかないといけない危機に直面していると考えます。
改めて日本全体が働き方改革ではなくて、働きがい改革をしっかりとやっていき、流動性を高め、会社に依存せずとも人が生きていける時代をつくっていくことが必要だと感じてます。
流動性が高まると、どんどん優秀な人間は辞めていってしまうため、経営者は社員が辛い思いをする経営ではなく、社員が働きがいを持てる経営をしていかなければなりません。
我々は、テクノロジーを使って人類に貢献できる会社を作っていきたいと考え世界中の人々魅了する会社を創るというビジョンを掲げています。我々のサービスを通して、一人でも多くの人が自身の会社を働きがいのある会社だと思えると良いなと思っています。
前編・後編を踏まえてのスライドはこちらから全内容ご覧いただけます。
最後に
先日のプレスリリースでお知らせしたSMBC様のwevox全行導入を初め、日本の様々は企業がエンゲージメントを起点とした組織改善に取り組んでいます。
組織の問題は簡単には解決できませんが、組織づくりにこだわりを持ち続けてきた私たちだからこそ、皆様の組織改善のお役にたてることがあると信じています。
現在wevoxでは、どなたでも気軽にwevoxやエンゲージメントなどについて知ることができるようにオンラインセミナーを開催しています。
コロナによる、リモートワークが推奨されている昨今の状況でも簡単にご参加いただけますので、ご興味のある方はぜひ下記よりご予約ください。